バイオインフォマティクス 中部大学2024年秋学期
制限酵素サイトを探す
制限酵素で消化したDNA断片を調べる
制限酵素(restriction enzyme)は特定の塩基配列を認識して切断するエンドヌクレアーゼの一種である。
メチル化酵素と合わせてウィルス感染に抵抗するしくみとして細菌が保有している。
数多くの制限酵素が同定され、遺伝子組み換え実験などで使用されている。
数多くの制限酵素が販売されており、それらの性質などについては各社のウェブサイトを参照するとよい。
予め塩基配列がわかっているときには実験を行う前に制限酵素消化で得られるDNA断片の大きさについて調べておくとよい。
制限酵素が認識する塩基配列はコンピュータの検索機能(多くのソフトではCtrl + f)で簡単に調べることができるが、塩基配列解析の専用ソフトではないときには少し注意が必要となる。
ここでは様々な方法で制限酵素で切断される部位(制限酵素サイト)を探す方法を学びながら、コンピュータで検索するときに考えなければならない問題について考える。
練習では以下塩基配列をもつ pBluescript SK (+) というプラスミド(環状DNA)をHaeIIIという制限酵素で切断する実験を考える。
pBluescript SK (+)
制限酵素の認識配列を調べる
- Takaraのウェブサイトを開いて、HaeIIIを検索する。またはTakara HaeIIIをGoogleで検索する。
- GGCCの塩基配列を認識して、平滑末端を生成することを確認する。
ブラウザーの文字列検索機能を使う
- ウェブブラウザーをアクティブにした状態で Ctrl + f キーと押す。
Internet Explorerの場合
Firefoxの場合
- 検索文字列としてGGCCを入力し、検索を行う。
上のpBluescript SK (+)の塩基配列にいくつか見つかることを確認する。
塩基配列1行目の終わりにGGがあり、2行目の先頭にCCがあるが、この塩基配列はブラウザーの検索機能では見つけることができないことを理解する。
ブラウザーなどの検索ではその制限酵素で切断できるかどうかを調べることは簡単にできるが、得られる断片の大きさなどを知ることは難しい。
Sequence Manipulation Suiteを使う
Sequence Manipulation Suite (前回のアミノ酸配列の翻訳のときに使用した)は様々な塩基配列の解析をウェブブラウザーだけで手軽に行える。
ここでは制限酵素を使用する実験で役に立つ機能を紹介する。
- Sequence Manipulation Suite を開く。
リンクの上で右クリックして新しいウィンドウを開き、このページと並べて表示させると便利に使える。
- Sequence Manipulation Suiteの左のメニューの「Sequence Analysis」グループの Restriction Digest をクリックする。
- テキストエリアに上記のpBluescript SK (+)の塩基配列をコピーする。
Treat sequences as "circular" molecules.を選択する。
Digest with "HaeIII gg|cc" and "nothing" and "nothing"を選択する。
「Submit」ボタンをクリックする。
- 新しいウィンドウに得られるDNA断片の塩基配列が表示される。
目的に合う制限酵素を探す方法
- Sequence Manipulation Suite を開く。
リンクの上で右クリックして新しいウィンドウを開き、このページと並べて表示させると便利に使える。
- Sequence Manipulation Suiteの左のメニューの「Sequence Analysis」グループの Restriction Summary をクリックする。
- テキストエリアに上記のpBluescript SK (+)の塩基配列をコピーする。
Treat sequences as "circular" molecules.を選択する。
「Submit」ボタンをクリックする。
- 新しいウィンドウに様々な制限酵素が切断する位置が表示される。
HaeIIIで切断される位置を調べて、得られるDNA断片の大きさを計算せよ。
Excelを使って制限酵素サイトを調べる
応用生物化学科および環境生物科学科の分子生物学実験では、PCRと制限酵素を用いてDNA多型の解析を行った。
ここではExcelを使ってその実験の内容を検討する。
実験では1. PCRでSNPを含むDNAを増幅し、2. 制限酵素 (HindIII) で切断し、3. 電気泳動による制限酵素断片の大きさの確認、という手順でSNPを解析した。
上記の手順はコンピュータ上では1. 部分文字列(塩基配列)の抽出、2. 文字列(制限酵素認識配列)の検索、3. 断片の大きさの検討、という手順になる。
下記にシロイヌナズナの1番染色体の塩基配列の一部(m235a)を示す。
上記の手順でColとLerの間の多型の解析を行う。
Col strain
Ler strain
PCRで増幅される断片の抽出
m235aは 5'-GAATCTGTTTCGCCTAACGC-3' と 5'-AGTCCACAACAATTGCAGCC-3' の二つのプライマーによって増幅する。
上記のColの塩基配列の中からこの二つのプライマーで増幅される塩基配列を抽出する。
- 上記のCol strainの塩基配列を選択し(塩基配列のどこかをクリックしたあとでCtrl + a)、ExcelのA1セルに貼り付ける(Ctrl + v)。
- 塩基配列を全て結合するために & 演算子を用いる。
B2セルに =A2&B3 と入力し、これをB8セルまでコピーする。
- D2セルに探したい塩基配列(一つ目のプライマーの塩基配列GAATCTGTTTCGCCTAACGC)を入力する。
- E2セルに =find(D2, B2) と入力する。12と表示されるので、12番目からプライマーの塩基配列と一致することを確認する。
- D3に二つ目のプライマーの相補鎖 GGCTGCAATTGTTGTGGACT を入力する。
E3セルに =find(D3, B2) と入力する。
523番目からが相補鎖と一致することがわかる。
- PCR断片の塩基配列を取得するためにはmid関数を用いる。
mid関数の3番目の引数は抽出したい文字列の長さを与える。
これはプライマー1の位置からプライマー2の位置までの長さに、プライマー2の長さを加えたものである。
D4に =MID(B2,E2,E3-E2+LEN(D3)) と入力する。
- PCRで得られるDNAの塩基配列がD4のセルに抽出されたことを確認する。
制限酵素が認識する配列を探す
- D6のセルにHindIIIの認識配列 AAGCTT を入力する。
- D7のセルに =FIND($D$6,$D$4) と入力する。
$D$6はD6のセルをクリックしたあと、F4のキーを押すと変換できる。
$D$4も同様。
- 2番目の制限酵素の位置を調べる。
find関数の3番目の引数に、検索開始位置を指定することができる。
2番目の制限酵素の位置は1番目の次から検索を行うと見つけれられる。
D7のセルをD8にコピーする。
その後D8の数式に3番目の引数を加える。
- #VALUE! と表示され、この断片にはこれ以上HindIIIの認識配列はないことがわかる。
制限酵素断片の大きさの検討
- D4にPCR産物の塩基配列が入力されている。これの長さをlen関数を使って求める。
- 1番目の断片の長さはfindの結果そのものである。
2番目の断片の長さは全体の大きさから1番目の位置を引いて算出する。
同様にLerの塩基配列についても解析せよ。
Lerの塩基配列をA15あたりにコピーし、1. PCRにより得られる断片の塩基配列の抽出、2. HindIIIの認識配列の検出、3. 制限酵素処理によって得られる断片の大きさの検討、を行う。
Lerの塩基配列にはHindIIIの認識部位がないことを確認せよ。
ColとLerの両方のPCR産物の塩基配列から226番目付近の塩基配列を取り出し、どのような違いがあるのかを調べてみよ。