トマト葉からのDNA抽出方法
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DNAの抽出はDNAが水に溶け、アルコールには溶けない性質を利用するものが多い。 | DNAの抽出はDNAが水に溶け、アルコールには溶けない性質を利用するものが多い。 | ||
Plant DNA Isolation Reagent (Takara社)はこの方法を植物からのDNA抽出用に特化している。 | Plant DNA Isolation Reagent (Takara社)はこの方法を植物からのDNA抽出用に特化している。 | ||
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もう一つは葉を凍結して固くすることで、乳棒・乳鉢ですり潰しやすくする。 | もう一つは葉を凍結して固くすることで、乳棒・乳鉢ですり潰しやすくする。 | ||
− | 植物のサンプルが粉末状になったらExtraction Solution 1(Sol1)を加える。 | + | 植物のサンプルが粉末状になったらExtraction Solution 1 (Sol1)を加える。 |
Sol1にはpHの緩衝作用があり、DNAが安定に溶解できるようにpHを8ぐらいに保つ。 | Sol1にはpHの緩衝作用があり、DNAが安定に溶解できるようにpHを8ぐらいに保つ。 | ||
− | + | またEDTAが含まれており、DNA分解酵素の働きに必要なMg<sup>2+</sup>をキレートして、DNA分解酵素の働きを抑える。 | |
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+ | 続いてExtraction Solution 3 (Sol3)を加える。 | ||
+ | Sol3は有機溶媒(benzyl chloride ベンジルクロライド)であるため廃液は流しに捨てない(エッペン管に入れたまま産業廃棄物として捨てる)。 | ||
+ | サンプルに含まれていた脂質や一部のタンパク質を溶かして除くことができる。 | ||
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+ | 加熱によりベンジルクロライドは細胞壁や多糖の水酸基をベンジル化し、有機層に溶けるようにする。 | ||
+ | 遠心して水層(上層)と有機層に分ける。 | ||
+ | DNAは水層に回収される。 | ||
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+ | 水層にアルコール(イソプロパノール)を加えて、DNAを析出させる。 | ||
+ | DNAは50%以上の濃度のイソプロパノールや70%以上のエタノールには溶けないので析出してくる。 | ||
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+ | 沈殿させたDNAは70%エタノールで洗う。 | ||
+ | エタノールを除くために乾燥させる。 | ||
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+ | 抽出したDNAは-20℃で保存する。 | ||
+ | DNAの分解を抑えるためにEDTAとTris-HCl pH 8.0が入ったTE溶液に溶かす。 | ||
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+ | ==使用する器具および試薬 == | ||
*液体窒素 | *液体窒素 | ||
*Plant DNA Isolation Reagent | *Plant DNA Isolation Reagent | ||
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*70%エタノール | *70%エタノール | ||
*TE溶液 | *TE溶液 | ||
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*遠心機 | *遠心機 | ||
− | + | == 実験方法 == | |
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:'''<span style="color:red">手袋を着用して、実験を行う。</span>''' | :'''<span style="color:red">手袋を着用して、実験を行う。</span>''' | ||
# トマトの葉100mg程を量り、乳鉢に入れる。<br/>液体窒素を入れて、乳棒ですりつぶす。 | # トマトの葉100mg程を量り、乳鉢に入れる。<br/>液体窒素を入れて、乳棒ですりつぶす。 | ||
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# 別のマイクロチューブに70%エタノールを1mlとり、DNAを入れる。 | # 別のマイクロチューブに70%エタノールを1mlとり、DNAを入れる。 | ||
# 15000rpmで5min遠心して、エタノールを除き、乾燥させる。 | # 15000rpmで5min遠心して、エタノールを除き、乾燥させる。 | ||
− | #TE溶液100μlを加えて、4℃で保存する。 | + | # TE溶液100μlを加えて、4℃で保存する。 |
2016年10月24日 (月) 10:27時点における最新版
[編集] DNA抽出の原理
DNAの抽出はDNAが水に溶け、アルコールには溶けない性質を利用するものが多い。 Plant DNA Isolation Reagent (Takara社)はこの方法を植物からのDNA抽出用に特化している。
まず植物体を液体窒素で凍結して破砕する。 この操作により細胞が壊れ、DNAが抽出液に溶けるようになる。 液体窒素を使用する理由は主に二つあり、一つは低温に保つことで細胞の中にあるDNA分解酵素の働きを抑えることである。 もう一つは葉を凍結して固くすることで、乳棒・乳鉢ですり潰しやすくする。
植物のサンプルが粉末状になったらExtraction Solution 1 (Sol1)を加える。 Sol1にはpHの緩衝作用があり、DNAが安定に溶解できるようにpHを8ぐらいに保つ。 またEDTAが含まれており、DNA分解酵素の働きに必要なMg2+をキレートして、DNA分解酵素の働きを抑える。 Sol1には塩(えん)も含まれており、DNAが水によく溶けるようにしている。
Sol1に続いてExtraction Solution 2 (Sol2)を加える。 Sol2には界面活性剤(detergent)が含まれており、タンパク質を変性する作用がある。
続いてExtraction Solution 3 (Sol3)を加える。 Sol3は有機溶媒(benzyl chloride ベンジルクロライド)であるため廃液は流しに捨てない(エッペン管に入れたまま産業廃棄物として捨てる)。 サンプルに含まれていた脂質や一部のタンパク質を溶かして除くことができる。
加熱によりベンジルクロライドは細胞壁や多糖の水酸基をベンジル化し、有機層に溶けるようにする。 遠心して水層(上層)と有機層に分ける。 DNAは水層に回収される。
水層にアルコール(イソプロパノール)を加えて、DNAを析出させる。 DNAは50%以上の濃度のイソプロパノールや70%以上のエタノールには溶けないので析出してくる。
沈殿させたDNAは70%エタノールで洗う。 エタノールを除くために乾燥させる。
抽出したDNAは-20℃で保存する。 DNAの分解を抑えるためにEDTAとTris-HCl pH 8.0が入ったTE溶液に溶かす。
[編集] 使用する器具および試薬
- 液体窒素
- Plant DNA Isolation Reagent
- Extraction Solution 1
- Extraction Solution 2
- Extraction Solution 3
- イソプロパノール
- 70%エタノール
- TE溶液
- ヒートブロック 50℃に設定
- 遠心機
[編集] 実験方法
- 手袋を着用して、実験を行う。
- トマトの葉100mg程を量り、乳鉢に入れる。
液体窒素を入れて、乳棒ですりつぶす。 - Extraction Solution 1 400μlを加えて乳鉢の中でよく混ぜる。
- Extraction Solution 2 80μlを加えて乳鉢の中でよく混ぜる。
- マイクロチューブ(1.5ml)に移す。
- Extraction Solution 3 150μlを加えてよく混ぜる(ボルテックスなど)。
- ヒートブロック(50℃)に15分間置く。
- 15000rpmで15min遠心し、上澄みを別のマイクロチューブにとる。
- 上澄みに同量のイソプロパノールを加え、混合してDNAを沈殿させる。
- 別のマイクロチューブに70%エタノールを1mlとり、DNAを入れる。
- 15000rpmで5min遠心して、エタノールを除き、乾燥させる。
- TE溶液100μlを加えて、4℃で保存する。